Blender Studioが、制作中の長編『OVERGROWN』で使っている影の作り方を「Painterly Shadows」として2026年8月21日に公開しました。書いたのは同スタジオの3DアーティストSimon Thommes氏(@simonthommes)です。影そのものを絵画的に加工するのではなく、影を落とす側のシルエットに筆跡のジオメトリを生やして、落ちた影の縁を崩すという手法です。
記事はBlender Studioのブログで読めます。作例の.blendファイルのダウンロードは購読者向けです。
絵に寄せていっても、影だけがCGのまま残る
Thommes氏が挙げている問題は、絵画調のレンダリングで落ち影が被写体のシルエットを正確に投影してしまうことです。形もテクスチャも絵に寄せていっても、背景に落ちた影の縁が精密なままだと、そこでCGらしさが出てしまう。
厄介なのは、この見え方が光源・影を落とす側・影を受ける面の3つに依存する点です。アセット単体の形やシェーディングをいじって済む話ではなく、レンダリングの過程そのものに手を入れる必要があります。
『Wing It』『Project Gold』では影を減らして逃げていた
過去作での対処も書かれています。短編『Wing It』では何が影を落とすかを厳しく選び、場合によっては影を落とす専用の簡略化したプロキシに差し替えて、影の形そのものを単純にしていました。

『Project Gold』では、シルエットや拡散・鏡面のシェーディングまで絵画調にまとまったものの、影だけは狙った絵に寄せきれなかったと振り返っています。落ち影を柔らかめに保ち、ブラシストロークのジオメトリが持つ凹凸で影が崩れるのを利用してしのいでいたものの、影が他の要素と同じ絵に溶けてはいなかった、という評価です。

影ではなく、影を落とす側に筆跡を足す
OVERGROWNでの答えは、影を絵画調に加工するのをやめて、影を落とす側の縁に筆跡を生やすことでした。落とす側のシルエットが崩れれば、投影された影の縁も一緒に崩れる、という筋です。

仕組みには、『Project Gold』のために作ったBrushstroke Toolsのセットアップをそのまま使っています。必要なのは影を落としたい形のシルエットに沿ったカーブ1本で、そこから生えたブラシストロークが被写体の影に筆の粗さを足します。
ビューポートで見ると、筆跡は板状のジオメトリとして被写体の輪郭にまとわりついています。カメラには映らず、影だけを落とす役です。

手置きのシャドウキャスターにも同じ手が使える
OVERGROWNでは影の多くをシャドウキャスターで手置きしています。カメラには映らず影だけを落とすための単純なメッシュ(多くは平面)で、明暗を人の手で決めるためのライティング用の道具です。
OVERGROWNの絵柄は影が非常にシャープなため、この平面の形がそのまま見えてしまう。そこでAndy Goralczyk氏がジオメトリノードで矩形の角を丸めるセットアップを作り、縁にテクスチャを与えて少し柔らかくする実験もしていた、という下地があります。だから縁をブラシストロークの列に変える発想は自然に出てきた、と書かれています。やることは境界エッジをカーブとして取り出し、Brushstroke Toolsのノードグループに渡すだけです。

輪郭は光源から見た形で取り、自己影はレイの距離で消す
任意の3Dメッシュに対しては、まず光源から見た輪郭をカーブとして作ります。Thommes氏は『Wing It』で輪郭線に使った手法を流用し、視点をカメラから光源に置き換えたと説明しています。
問題になるのは、メッシュの表面に直接ブラシストロークを生やすとそのメッシュ自身に影が落ちることです。これはシャドウキャスター側のシェーダーで、レイの距離に応じて影をフェードさせると回避できます。遠くにだけ影が落ちるようになり、接地影も影響を受けるものの、距離の範囲を詰めれば欲しい影は残せます。

動くものは代表フレームでベイクして貼り付ける
動いて変形するジオメトリでは影の形も変わるため、筆跡も追従させる必要があります。ただし形が変わっても消えたり現れたりしないブラシストロークを手続き的に作るのは難しすぎると判断し、Thommes氏はボタン1発の魔法ではないとはっきり書いています。
代わりに採ったのは、カットの代表フレームを1枚選んでブラシストロークを生成し、以降はジオメトリと一緒に変形させるやり方です。動きが極端でなければ影は大きく変わらず、メッシュに付いて動けば足りるという割り切りです。
ほかの選択肢も挙げられています。シミュレーションゾーンで4フレームごとに更新すればポッピングは残るがむしろ意図的に見せられる、光の角度別に2つ以上の影をベイクしておけばポッピングなしで角度差をカバーできる、という2つです。OVERGROWNのティザーでは絵柄の都合でポッピングを避けたいため、1枚の代表フレームをカット全体に使い、絵として差が出る場所を選んで1つずつ入れています。

使うときに引っかかる条件
配布ファイルのLGT-shadow_outlineオブジェクトを自分のシーンに持ち込んで使う形です。モディファイアのパネルで主光源とその種類(スポットとエリアは位置を持つのでポイント扱い)と影を落とす対象を指定し、代表フレームでジオメトリノード内のベイクノードを実行して表面に固定します。

公式が前提として挙げているのは次の点です。
- シャープな光源が必須 筆跡の形を影として鮮明に投影するため
- 透過バウンス数はブラシストロークの本数以上 多いほど良いが、そのぶんレンダリングは遅くなる
- 可視性は影だけに絞る 配布のオブジェクトアセットを使えば既定でその状態
- サブディビジョンサーフェスを使うならカット全体の変形をベイク トポロジーが変わるとバインドが壊れる
- 影の形が代表フレームから大きく変わる場合 オブジェクトを複製して別のフレームでも同じ手順を繰り返す
なお配布ファイルの表記はBlender 5.2 LTS以降ですが、記事の末尾には5.3 alphaを使うようにという記述も残っています。手順とパラメータの詳細は元記事の「How To」にまとまっています。
カメラを光源に見立てると輪郭線にもなる
おまけとして、同じ仕組みで見える輪郭線を出す使い方も書かれています。セットアップは光源から見た輪郭を作るものなので、光源の指定をカメラに差し替えれば(ポイントライトとして扱う)カメラから見た輪郭にブラシストロークが生えます。オブジェクトをカメラに映る状態にし、シェーダー側も見えるようにする追加の設定が必要です。Thommes氏自身は「輪郭線の作り方として一番のおすすめではない」と注意書きを付けています。
OVERGROWNの制作ログ6本も読める
この記事と同じブログには、OVERGROWNのティザー制作を追った制作ログ6本が7月18日から8月19日まで週1本のペースで並んでいます。担当はBTSツアーガイド名義のAnastasia Rudina氏です。
- #1(7月18日) プロジェクト発表前の数か月ぶんの振り返り。ストーリーと美術の方向性、街の運河のセットを2回作り直した経緯
- #2(7月22日) 声の選定、ショットの組み立て、毛の扱い
- #3(7月29日) キャラクターのシェーディングの詰めとショットのセットアップ
- #4(8月5日) ティザーのアニメーション作業と、手作業で最終的な見え方を足す工程
- #5(8月12日) 水の扱い。ライティングからエフェクトまで
- #6(8月19日) 音楽とコンポジット
OVERGROWNは長編として企画されていて、Blender Studioは支援者7,000人という目標に届いていないことを公表しています。ティザーの公開はこれからです。
記事そのものはBlender Studioで無料で読めます。作例の.blendファイルのダウンロードは購読者向けで、ライセンスはCC-BY、対応はBlender 5.2 LTS以降です。ブラシストローク自体の扱いは、同じくBlender Studioの講座「Stylized Rendering with Brushstrokes」でも解説されています。
管理人のひとこと
セルルックの背景をやっていると、落ち影の縁だけが最後までCGのまま残るのは覚えのある話です。うちだと影の形はコンポジット側で描き足して逃げることが多いので、3D側で影を落とす物体のほうに筆跡を足してしまう発想は、うちの工程にも入れやすそうです。
引っかかるのは代表フレームでベイクして持たせるところで、光源や被写体がカット内で動くと崩れます。試すなら動きの少ないカットからになりそうです。カメラを光源に見立てれば輪郭線にもなるという話は、Quick Lineartのようなノードで線を出す手と並べて見比べたいところです。



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