アニメ制作スタジオCloverWorksが公式noteで、自社で企画・制作して入社スタッフ全員に配っているガイドブック「制作進行の手引き」の中身を紹介しています。記事の公開は2026年8月10日で、9月3日に内容が更新されました。打ち合わせ・素材管理・各セクションとの連携という3部構成で、巻末には604語の用語集が付いています。

口伝で覚えていた仕事を、本にまとめたもの
CloverWorksが本書を作った出発点は、制作進行という職種の置かれ方への問題意識です。関わる人も業務内容も幅広く、専門知識のほかに一般常識やビジネスマナーも求められるのに、これまでは口伝や現場での体験を通して覚えていくことがほとんどだった、というのがその内容です。制作進行の視点でまとめた理由については、数あるセクションの中でも制作進行が1つの話数を最初から最後まで責任を持って管理し、納品までのすべての工程とセクションに関わるためだと説明しています。
全体を貫くテーマは「報連相」、つまり報告・連絡・相談です。商業アニメは集団作業なので、制作進行以外のクリエイティブセクションが読んでも相互理解が深まる、という位置づけになっています。配布先も制作進行に限らず、入社したスタッフ全員です。
図解のために作品を1本作っている
本書のために『アニごと』『クラウン・オーダー』というオリジナル作品を企画し、撮影まで終えたデータを作成しています。素材の説明や図解にはこの2作品の実データが使われていて、教材のためにワークフローを一周させた形です。『アニごと』のキャラクターは本文中にSDキャラのナビゲーターとしても登場します。
第1部 打ち合わせ・イベント管理
演出打ち合わせ・作画打ち合わせなどの各種打ち合わせと、編集・アフレコなどのイベントをまとめた部です。打ち合わせやイベントごとに参加メンバー・場所・所要時間を整理し、事前準備から打ち合わせ後の対応までの流れを説明しています。それぞれの風景はイラストで図解され、SDキャラによる会話例が添えられます。
打ち合わせやイベントの日程は作品や話数によって変動するため、時系列のフローではなく項目ごとにまとめる構成をとった、とCloverWorksは説明しています。目次では、制作進行の仕事の説明に続いて演出打ち合わせ・作画打ち合わせ・色彩・背景・撮影打ち合わせと並び、その次に「3D・2D貼り込み発注」が独立した項目で立っています。以降は編集・アフレコ・マーキング・ダビング・オールラッシュ・原版組み・ビデオ編集と続きます。

第2部 素材管理
絵コンテ・キャラクター設定などの各種設定と、レイアウト・原画といった中間成果物(あがり)を扱う部です。各種設定には『アニごと』制作で実際に使った素材が掲載され、中間成果物についてはそれぞれの読み方や扱い方から、あがりとして回収したあとの流れまで説明されます。
イレギュラーの多いトピックのため、SDキャラによるQ&Aやワンポイントアドバイスが多めに配置されているのがこの部の特徴です。目次上は各種設定資料・レイアウト・ラフ原・原画・動画・仕上げ・背景・撮影と素材が並び、ここでも「3D・2D貼り込み素材」が1項目として立っています。

第3部 各セクションとの連携
第1部・第2部を踏まえた上での、スケジュール管理と営業(依頼と発注)を扱う部です。営業や発注に必要なリスト・伝票類を図解付きで解説し、原画や動画などそれぞれの素材発注の流れを説明した上で、発注時の具体的な会話内容やメールのやりとりが例として載っています。コミュニケーション力と臨機応変な対応力が要る領域のため、前の2部より実例に即したやりとりが多く掲載されているとのことです。

各章の区切りには、実際の現場で働くクリエイターへのインタビューが「教えてセンパイ!」として挟まれます。美術監督・編集・色彩設計・音響監督・作画監督・撮影監督など、セクションごとに何人ぶんも並ぶ構成です。それぞれのセクションでどういう思いを持って日々アニメ制作に関わっているのかがわかる資料だ、とCloverWorksは書いています。

巻末のプリプロ解説と604語の用語集
巻末にはコラムとしてプリプロ工程の説明、CloverWorksの紹介、そして索引付きの用語集が入ります。プリプロは制作進行が積極的に介入する現場が多くないため付録扱いですが、『クラウン・オーダー』の資料を使って脚本の読み方などが解説されています。
用語集は関連用語を含めて604語を収録。本文に出てくる専門用語については、読んでいる最中につまずかないよう欄外にも説明が添えられています。

現在は市販していない
本書の制作を担当した企画推進ルームの山口ひかる氏は、別のnote記事で「『制作進行の手引き』は今のところ市販してはいない」と述べています。書店などで大規模に一般流通させることは考えていない一方、外部の講習とセットで教科書的に頒布することは検討中とのことです。社内向けにはアップデートしたWeb版を作成済みで、それを反映した改訂版の増刷も予定されています。
同記事によると、ヒアリング開始から刊行まではおよそ1年半。2025年4月から社内の新人研修に使われており、現在は大学や専門学校と協力して、手引きを教科書として講義カリキュラムに組み込む試みが進んでいます。1話数を制作する想定で必要なページを参照しながらフローを学び、実習や模擬打ち合わせのグループワークを行う形です。
山口氏は、こうした座学が必要になった背景として制作環境の変化を挙げています。2019年頃以前は1本あたりの制作期間が短く、1人の制作進行が同時に抱える作品数も多かったため場数を踏めたが、制作期間が延びた現在は入社4年目でも納品した本数が片手で足りる人もざらにいるとし、ワークフロー全体を経験する回数と用語を耳にする回数が減ったぶんを本で補完する必要が出てきた、と説明しています。
本書の詳しい内容はCloverWorks公式noteで、制作の背景と今後の展開は「『制作進行の手引き』活用と今後」で公開されています。
管理人のひとこと
目次に「3D・2D貼り込み発注」と「3D・2D貼り込み素材」が独立した項目で入っているのが目に留まりました。制作進行向けの本ですが、こちらから見ると「出した3Dが向こう側でどう扱われているか」が書いてある本でもあります。撮影に渡したあとの流れをよく知らないまま出しているものは自分にもあるので、こういう形で言語化されているのはありがたいです。
用語集の604語という数字も引っかかりました。他セクションと話していて、同じ言葉を違う意味で使っていたと後から気づくことがたまにあります。社内で用語を揃える土台として本を配る、というやり方は規模の大きいスタジオでないと難しいのかもしれませんが、考え方としては参考になります。
カッティングやV編も、新人の頃は何をする場なのか分からないまま進めていました。第1部は打ち合わせとイベントを項目ごとに並べる構成で、編集とビデオ編集も別々に立っています。CGの仕事に限らず、アニメ制作に関わる人に広くすすめたい一冊です。
市販していないのは残念ですが、講習とセットでの頒布は検討中とのことなので、そちらの動きは追いかけたいところです。



コメント