環境アーティストの Nore Pollentier氏が、Unreal Engine 5で制作した背景作品「Ruined stairway – Unreal Engine scene」と、その制作過程をまとめたブレイクダウンをArtStationで公開しています(作品の公開は2026年3月13日)。氏にとって初めての屋外環境の制作とのことで、ライティングとコンポジションで視線を奥へ誘導する空間づくりに焦点が当てられています。中でも実務に持ち帰りやすいのが、ノイズの出ないソフトシャドウをライトファンクションで疑似的につくる手法と、テクスチャを全て2K以下に抑えたまま密度を出す割り切り方です。
自作アセット+World Aligned Materialで石壁の継ぎ目を消す
シーンを構成する石造りのアーチ・柱・破損した壺などは、氏自身がモデリングとテクスチャリングを行なっています。使用ソフトはシーン構築のUnreal Engineに加え、Blender・ZBrush・Substance 3D Painterと記載されています。樹木や草はQuixelのアセットとUnreal Engine標準のProcedural Foliageツールを併用し、効率よく植生を構築しています。
石壁のように広範囲へ適用するベース素材には World Aligned Material を採用。UV展開ではなくワールド空間の座標を基準にテクスチャを投影する方式なので、モジュール式のアセットを繋ぎ合わせたときやスケールを変えたときにも、テクスチャの歪みや不自然な継ぎ目が出ません。背景モデリングでモジュールを量産する場面では、UVの詰め作業そのものを減らせる考え方です。

主な技術ポイント
- ライトファンクションによる疑似ソフトシャドウ: ノイズパターンのテクスチャをライトファンクションとしてスポットライトに適用し、複雑な構造物や植物越しの影を低負荷かつノイズレスに地面へ落としています。
- World Aligned Material: 石壁などのベース素材をワールド座標基準で投影し、モジュール接合部やスケール変更時の継ぎ目・歪みを回避しています。
- World Position Offset+SimpleGrassWind: マテリアルエディタ内で頂点アニメーションを組み、植物の自然な揺れを表現。負荷対策としてWPOのアニメーションは近景のフォリッジのみに適用しています。
- テクスチャは全て2K以下: 解像度を上げずに、配置とライティングでリッチさを出す方針を徹底しています。
- Lighting Complexityでの可視化: ライトのオーバーラップによる負荷をヒートマップ表示で確認しながら、スポットライトの本数と配置を管理しています。
- 前景・中景・後景のレイヤー分離: 3層を明確に分け、背景の森には光を遮る見えないボックスを置いてコントラストを意図的に落とし、情報量をコントロールしています。
ノイズのないソフトシャドウをライトファンクションで作る
複雑な構造物や植物越しに落ちる影を物理的に正確なソフトシャドウで計算しようとすると、ノイズが出やすく描画負荷も跳ね上がります。本シーンではその代わりに、ノイズパターンのテクスチャを適用したライトファンクション付きスポットライトを配置し、計算負荷を抑えたまま柔らかい木漏れ日のような影を地面へ落としています。ブレイクダウンには適用前後の比較も掲載されており、硬く割れていた影が一気に自然になっているのが分かります。
あわせて、ライティングのComplexityを示すヒートマップ表示でライトのオーバーラップを可視化し、負荷の高い領域を把握しながら調整。コンポジションの面では最も明るい領域をフォーカルポイントに設定し、明暗差で自然に視線を奥のアーチへ誘導しています。

負荷を抑える割り切りと構図のレイヤー設計
植物の揺れは、マテリアルエディタ内でWorld Position Offset(WPO)とSimpleGrassWindノードを組み合わせた頂点アニメーションで表現しています。ただし全ての植生を揺らすと負荷が読めなくなるため、WPOによるアニメーションは近景のフォリッジのみに限定。テクスチャ解像度も全て2K以下に抑えられています。
ライティング設計では前景・中景・後景を明確に分離し、背景の森のディテールが過剰なノイズとなって視線を妨げないよう、光を遮る見えないボックスを配置して背景のコントラストを意図的に落としています。「奥を作り込む」のではなく「奥の情報量を落とす」という引き算の判断で、手前のアーチと階段に視線を集めているわけです。

制作の初期段階では、実在する廃墟や植物に覆われた階段のリファレンス画像を多数収集し、2Dのアイデアスケッチから3Dのブロックアウトへ。この時点で鑑賞者の視線を奥のアーチへ導く導線が設計されています。以降は作業中の画面にペイントオーバーを行い、露出の修正・色の追加・背景のノイズ軽減・アーチへのフォーカス強化といった課題を洗い出すイテレーションが繰り返されたとのことです。
作品とブレイクダウンの全体はNore Pollentier氏のArtStationでご覧いただけます。
管理人のひとこと
ライトファンクションで疑似ソフトシャドウ、という発想が個人的に一番の収穫でした。木漏れ日を真面目にやろうとすると葉の一枚一枚に影を落とさせることになって、ノイズと描画負荷の両方に殴られがちなのですが、「それっぽいノイズテクスチャを光側に持たせる」だけで解決してしまうのは、考えてみれば当たり前なのに手が出ていなかった手です。ヒートマップでライトの重なりを見ながら本数を詰めているのも、実務でそのまま真似できるやり方だと思います。
もうひとつ効いているのが、テクスチャを全て2K以下に抑えている点。解像度で殴らずに、World Aligned Materialで継ぎ目を消してディテールを稼ぎ、背景は逆に情報量を落とす。この引き算のバランスが、結果として画の見やすさに直結しているように見えます。作品自体は3月公開なので少し前のものですが、手法としては全く古びていません。初の屋外環境でここまで詰められるものかと、素直に感心しました。



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