9月23〜25日にアムステルダムで開かれたBlender Conference 2026(BCON26)から、スペインのアニメーションスタジオB-Water Studiosによる講演「Building a Complete Animation Pipeline for a Feature Film with a Woolly Look」の動画が、Blender公式YouTubeで2026年9月25日に公開されました。約52分です。
題材は、同スタジオが1か月ほど前に作業を終えたばかりの長編アニメーション『Pikkuli and Starlight Reindeer』。登壇したのは、技術統括のJuan Carlos García del Blanco氏と、ルックデヴ・サーフェシング・ライティングを率いたAntonio Torralba氏です。毛に覆われたキャラクターを限られた予算とGPUメモリで作り切るために、Blenderの中でどんな工程を組んだかを、ルックデヴからライティングまで順に紹介しています。
2Dのキャラクターを「触りたくなる」質感の3Dへ
Pikkuliはもともと未就学児向けの2Dのショートシリーズで、平面的な絵柄です。プロデューサーの要望は、子どもが触って遊びたくなるような、手触りのあるリアル寄りの質感でした。ほとんどのキャラクターがフェルトのような毛に覆われ、目の作り込みや2D由来のグラフィックな要素も3Dに持ち込む必要がありました。
方向性が決まらない段階では、Blenderでプロシージャルに複数の案(きれいな刺繍、クラシックな刺繍、毛を混ぜたもの、陰影なし、フォームなど)を作って見せ、最終的にプロシージャルの刺繍の案が選ばれています。トゥーン寄りの案や、Ray Portalノードを使ったベルベット調の案も試しましたが、採用はされませんでした。
モデリングとルックデヴの間に「なんでもやる工程」を置く
以前の作品では、モデリング(モデルとUV)とルックデヴ(マテリアル)を分けた古典的な流れでした。今回はそれでは回らず、ルックデヴ側がUV、法線、アトリビュート、モディファイアまで握れるように、モデリングとルックデヴの間に工程を一段挟んでいます。グルームもルックデヴの中に入れました。
もとは2D作品の想定だったため予算は厳しく、毛の生成は1つのジェネレーターにまとめました。既存の実装やBlender本体のヘアの開発成果を取り込んだ自前のヘアジェネレーターで、毛のシミュレーションは一切使っていません。
シミュレーションなしで毛の貫通を消す
シミュレーションを使わない以上、毛がドアや小物を突き抜ける問題が出ます。対策として、キャラクター自身用と、それ以外の小物・背景用の2つのコレクションを用意しました。消し方は2通りで、1つは対象の近くにある毛を消す方法(簡単だが境目がはげる)、もう1つは毛からレイを飛ばし、当たった面の法線を見て内側にある毛を切る方法です。どちらも単純な仕組みですが、全カットの接触を気にせずに作れたと話しています。
元の2Dデザインにある縁のフレネルのような明るさも、大量の毛にそのまま出すとノイズにしかなりません。そこで元の面の法線を毛に転送し、シェーディングで混ぜて色の変化を出しています。
GPUメモリ16〜32GBに収めるための全面プロシージャル
レンダーファームはGPUで、メモリは16〜32GB。マフラーや帽子などキャラクターの小物は、繊維まで完全にプロシージャルで作りました。映画の95%では2Kにベイクした軽い版を使い、寄りのカットでだけ元のプロシージャルに切り替えて細部を出しています。5人並ぶカットで8Kテクスチャを使えば、それだけでメモリが足りなくなるためです。リュックの刺繍の縫い目は、方向ごとに3つのUVセットを使ってプロシージャルに作っています。
金属のヘアライン加工のようなリアルな質感の小物に、メガネに入るアニメ調のハイライトのような2Dの要素も混ぜています。映画の大半は2Dの背景に、毛の多いリアル寄りの3Dキャラクターを置く構成で、想像以上にうまく噛み合ったそうです。
共通シェーダーに入れた4つの工夫
制作用のシェーダーは8割がPrincipled BSDFで、そこに独自の入力を足しています。
- 法線のファセット化:法線をボロノイの座標に入れ、Position出力でセルごとの平面に分けて手描き風の法線にする(ノイズで歪ませたり、Smooth F1で硬さを混ぜたりもできる)
- Self Emission:光は出さず、元の色をカメラに少し見せることで、暗部の黒を抑えて平面的な見た目と元の配色を保つ
- 影の制御:影を落とし始める距離と終わる距離を指定し、葉の重なりのような近距離の細かい影を消して、遠くへ落ちる影だけ残す
- プロシージャルのグレイン:低解像度のテクスチャをごまかすため、ほぼ全編に重ねている
平面の2D背景をライティングに参加させる
背景はPhotoshopのレイヤーを重ねた平面の画像として届くため、そのままでは影も立体感も出せません。そこで2つのモードを作りました。1つはアルファをぼかして厚みを作り、カメラの方向へ押し出すもの(木など。カメラが動いても常にカメラを向く)。もう1つは地面用で、アルファの縁からの距離を測って自動で傾斜を作るものです。どちらも誰もモデリングせず、スライダー数本で済みます。
Torralba氏の個人的な取り組みとして、Ray Portalノードを使った絵画的な表現も紹介されています。元の形状を少し押し出した殻にRay Portalを当てて元の位置を向かせ、ブラシのテクスチャを乗せると、輪郭が崩れていてもライティングは破綻しない見た目になります。毛や、過去の作品の雲にも使ったそうです。背景が画像だけのカットに乗せる3Dのエフェクトは、ジオメトリノードとホールドアウトで馴染ませています。
ライティングの上書きは3段のカスタムアトリビュートで
Blenderにはまだ動的なオーバーライドが無いため、シェーダー内のカスタムアトリビュートで3段の上書きを組みました。シェーダーのノードグループの既定値、シーン単位のカスタムアトリビュート、オブジェクト単位のカスタムアトリビュートの順に上書きされ、シーンに数個のアトリビュートを置くだけで、シーケンス全体の時間帯やSelf Emissionの強さをまとめて変えられます。他のソフトから来たライティングアーティストのために、光のバウンスの倍率などの定番の処理もノードグループとして用意しています。
今後Blenderに欲しいものとして挙がったのは、ライト・シャドウリンキングの名前(パス)による指定、AlembicとUSDでのアトリビュートの変化の受け渡し、動的なオーバーライドです。この映画はBlender 4.2で作られ、次の作品ではシーケンス単位のライティングを試しているところで、シーンごとに持てるようになったコンポジターにも期待を寄せています。テクスチャキャッシュについては、高価なGPUを買えない小〜中規模のチームにも道を開く変更だと歓迎していました。
管理人のひとこと
2Dの背景にリアル寄りの3Dキャラクターを置いて馴染ませる話は、アニメの現場にもそのまま通じる内容でした。平面の背景をアルファから押し出して影を受けさせる仕組みや、Self Emissionで暗部の黒を抑えて元の配色を残す考え方は、セルルックの仕上げでも使えそうです。
メガネにアニメ調のハイライトを入れているのも面白いところで、リアル寄りの質感の中に2Dの記号を混ぜても違和感なく収まっているのは見ていて気持ちいいですね。



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