ArtDeck|動画もPDFも置けるリファレンスボード。明暗・色・構図を同じ画面で分解できる

CG全般

PureRefの代わりになりそうなリファレンスアプリが出ています。ArtDeckは、画像だけでなく動画・GIF・リンク・メモ・PDFを同じ無限キャンバスに置けて、そのまま明暗や色や構図を分解できるアプリです。開発者はAlexandre Alves氏、v1.0.0が2026年8月3日にApp Storeで公開されました。iPhone・iPad・Mac対応で買い切り1,000円です。

ArtDeckとは

「集めて、並べて、観察する」までを1つのアプリでやるためのリファレンスボードです。開発者は自身の記事で、作りはじめた経緯をこう書いています。個人のゲーム企画のコンセプトを詰めていた時期、リファレンスがPureRef・Notion・Photoshop・Procreateに散らばり、デスクトップとiPadに分かれていた。2台のデバイス、3つの画面、4つのツール。どれも悪いツールではないけれど、切り替えるたびに集中が削られていた、と振り返っています。

不足していたのは整理する場所ではなかった、という整理が的確でした。画像を保存する場所なら100通りある。足りなかったのは「時間をかけて眺め、観察するための場所」だった、という話です。絵からパレットを抜き出したら、その絵の隣に置いておきたい。リファレンスの明暗構造を確かめるのに別のツールを開きたくない。

1枚のキャンバスに、何でも置ける

画像・動画・リンク・メモ・PDF・GIFを同じボードに置けます。ボード上に直接描き込んだり注釈を入れたりでき、リファレンスから抽出したスタディをその場に残して、関係するものをグループにまとめられます。

ArtDeckのボード。秋の写真リファレンス、動画、リンクカード、ラベル、抽出した線画スタディが1枚のキャンバスに並んでいる

対応形式は一般的な画像形式に加えてWebP・AVIF・JXL・HDR・EXR・SVG、動画、GIF、最大300ページのPDF。対応ディスプレイではHDRの画像・動画をフルの明るさで表示でき、アプリ全体でもボード単位でも切り替えられます。リンクはURLを貼るとカードとして保存され、画像・動画・PDFのリンクはペーストで取り込めます。

ToolBox ― 5つのレンズで観察する

ArtDeckの中心にあるのがToolBoxです。ボードの上に重なる形で開き、画像や動画のフレームに対して分析ツールを直接かけられます。元のファイルは書き換えません。レンズは5系統で、どのレンズの横にもアナリシスパネルが付き、バリューの範囲・ヒストグラム・色相・彩度・色の分布を読み取ります。

ToolBoxのバリューレンズ。Notanで画像を白黒2値の塊に還元し、しきい値と単純化のスライダーが表示されている

バリューのレンズには、グレースケール/バリューラダー/Notanが入っています。グレースケールは色を抜くだけ、バリューラダーは色を抜いたうえで階調を離散的な段に割り当てて明暗の構造を見せる、Notanはさらに踏み込んで2〜3値の光と影の塊まで還元します(単純化スライダーで塊のまとめ具合も変えられます)。構図を考える前に、まず明暗の塊で考える描き方に対応した機能です。

このNotanという名前は、日本語の「濃淡」がそのまま英語圏の美術用語になったものです。アーネスト・フェノロサが米国に紹介し、アーサー・ウェズリー・ダウが1899年の教本『Composition』で線・Notan・色という構図の三本柱として説いて以来、あちらの美術教育に定着しています。ダウ自身は「明暗を意味する日本語」と説明していました。日常語の「濃淡」が連続した階調を指すのに対し、こちらは中間調を捨てて塊にするほうの意味です。ArtDeckは日本語にローカライズされていますが、その日本語表示でも綴りは「Notan」のままなので、本記事もそれに合わせています。実際のパラメータも、何値に落とすかのレベル数(2で二値化)、しきい値、細かい斑点をまとめるSimplify、元画像とのブレンド率という構成でした。

ToolBoxのカラーレンズ。リファレンス画像からパレットを抽出し、色数や並び順を指定するパネルが並ぶ

カラーのレンズは、画像から欲しい色数を指定してパレットを抽出できます。色温度マップと彩度マップも用意されていて、暖色寒色の配置や彩度の高い領域がどこに寄っているかを面で確認できます。

ToolBoxの構図レンズ。三分割ガイドを画像の上に重ねて表示している

構図のレンズは三分割などのガイドを重ねる系統。新しいフレーミングを試したり、対称性をチェックしたりできます。

残る2つが読み解きと計測です。読み解きレンズのシェイプグルーピングは大きな形がどう組まれ、塊がどう釣り合っているか(あるいは釣り合っていないか)を見せるもので、開発者自身がお気に入りに挙げています。ディテール密度は視線が長く留まりそうなホットスポットを可視化し、エッジ階層をたどるツールもあります。計測レンズは垂直線を下ろす、スナップガイドで角度を読む、2つの長さを比べる、といった直接的な道具立てです。作ったスタディは書き出すこともボードにコピーを残すこともできます。

動画とGIFを1フレームずつ、オニオンスキン付きで

動画やGIFのリファレンスは再生・一時停止・コマ送りができ、前後のフレームを現在のフレームに重ねてフェード表示できます。タイミング・スペーシング・動きの比較をそのまま画面上で行う機能で、GIFにはフィルムストリップも付きます。フレーム範囲・不透明度・減衰の各コントロールが用意されています。

描くアプリの隣に置いておける(iPad)

iPadではSlide Over/Split View/Stage Managerで、絵を描くアプリと画面を分け合えます。ArtDeck側で色を拾って、描画アプリにペーストするという使い方が想定されています。ToolBoxはソースファイルを一切書き換えません。

同じボードが3台に同期する

iCloud経由でiPhone・iPad・Macに同じボードが行き渡ります。同期はボード単位で任意にでき、オフラインでも完全に動作して後から同期が追いつく設計です。アカウント登録の仕組みは無く、購入履歴とファミリー共有はApp Storeが扱います。iCloudを使わない場合はボードが端末内に留まるだけで、アプリ自体は動きます。

テーマは自分で作れる

ArtDeckのテーマエディタ。配色トークンの一覧とHSBスライダー、コントラストのチェック結果、ライブプレビューが並ぶ

テーマエディタで配色を編集でき、アプリ全体の既定として使うことも、特定のボードだけに当てることもできます。編集中にコントラストのチェックが走り、ファイルやリンクで書き出し・読み込みができます。開発者は「みんなに自分のものにしてほしかった」として、作ったテーマを共有できる仕組みにしたと書いています。

価格・入手先

App Storeで1,000円の買い切り(サブスクリプションではありません)。1回の購入でiPhone・iPad・Macすべてに使えます。動作環境はiOS 18.0以降/iPadOS 18.0以降/macOS 15.0以降、サイズは76.7MB。日本語を含む13言語にローカライズされています。開発者は「ロードマップにお金を払わせたくなかった」として、機能が出揃ってから出すことにこだわったと書いていました。詳しくは公式サイトをご確認ください。

管理人のひとこと

初見のアプリです。PureRefの代替という紹介のされ方をしていますが、実際に見ると置き場所の話ではなく「観察する場所」の話になっていて、そこが目新しく感じました。パレット抽出やNotanは単体のWebツールならいくらでもありますが、リファレンスの真横に結果を置いたまま作業を続けられるのは、たしかに別物です。

そのNotanも、今回はじめて名前の由来を知りました。日本語の「濃淡」が元だそうです。ただパラメータを見るかぎり、やっていることは濃淡というより二値化で、しきい値をどこに置くかで塊の出方が決まる機能でした。

3DCGの立場でいちばん気になったのは動画のオニオンスキンでした。実写や既存アニメを参考にするとき、結局は再生と停止を往復してタイミングを目で拾うことになるので、前後フレームを重ねて薄く出せるだけで見え方が変わります。GIFのフィルムストリップも同じ用途で、そこにNotanをかけて明暗の塊で見られるなら、ライティングやシルエットの検討にも回せます。参考動画まわりでは、MayaのMedia Plane 2.0(ビューポート内でノンリニア編集)と、3ds MaxのAnimRef(リファレンスムービーを再生して描き込み)を以前扱いました。DCCの中へ持ち込むあの2本と、外に置いて観察するこちらで、向きが逆なのが面白いところです。

気をつけたいのはAppleプラットフォーム専用だという点です。作業機がWindowsだとMac版が使えないので、iPhone/iPadで集めてMacで見るという想定の外に出ます。公式のロードマップを見ても候補機能の対象はすべてiPhone・iPad・Macで、Windows版の予定は挙がっていません。同期がiCloud前提で、共有機能も「別のAppleアカウントと」と書かれている作りなので、当面は期待しないほうがよさそうです。逆に、外でスマホで撮ったテクスチャや構図をそのまま持ち帰る流れが欲しい人には、1,000円の買い切りは試しやすい価格だと思いました。

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